Nishika AI News Letter - Issue #6
Summary
人工経済を作って税制を深層強化学習で決めてみたら、経済学が導く最適税制より高性能だった、という話が最も興味深いです。「強化学習」は本Letterであまりとりあげてきませんでしたが、ブロック崩しを攻略するAIや囲碁AIは皆さん見た・聞いた経験があるのではないでしょうか。ゲームを何度も攻略し、うまくいった行動などからフィードバックを得てどんどん賢くなっていく形の学習をします。それを経済学に当てはめてみたらこの結果が出たということで、何事も現実を精度高く模した設定さえできれば後はAIに解いて貰えば良いのでは、、、という気持ちにもなります。
その他、不正会計を見抜くAI、低解像度を高解像度に変換する「超解像」の技術など、興味深い事例をPickしました。フードデリバリーのDoorDashの事例は機械学習に加えて前回Letterでご紹介した最適化技術も取り入れていて、昨今のデータサイエンス技術を余す所なく使い込んでいる、という印象です。
AIのunlearn、AIに学習したことを如何に忘れさせるかという研究は、昨今話題のAIの偏見を是正するのにも役立ちそうで、重要なテーマです(もっとも、個人的にはAIの偏見を是正するのはAIの役目ではなく、AIを利用する人間の役目だと思っていますが)。(M)
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Application
The AI Economist: Improving Equality and Productivity with AI-Driven Tax Policies
経済シミュレーションの中で税制策を強化学習を通じて学習したところ、Emmanuel Saezが提案した著名な税制フレームワークと比較して、平等と生産性のトレードオフを16%改善することができたという報告。これを持ってAIを全面的に支持するまではないにせよ、AIの示した、最高税率を高くし中間所得者の税率を低くするという既存の枠組みと異なる点は、注目に値するとの考察。
【特別レポート】機械学習の手法を用いた、非上場企業の不正会計予測
不正会計の検知・予測に際して、できる限りデータ収集のコストを抑えつつ、高精度を保つことを目指した調査研究。一般的な企業情報・財務情報などの他に、企業のネガティブイベントに関するテキスト情報を説明変数として付与している。不正会計の発生有無をAUC0.9弱という高い精度で検知しているが、これが公開情報が限られる非上場企業を含めた結果である点に注目。
Googleが「ガビガビの低解像度画像を高解像度画像に変換するAIモデル」の性能を改善、人間が判別できないレベルに
超解像とは、元の画像の解像度を擬似的に上げる技術のこと。その中でも本ニュースは、既知のデータ(低解像度データ)から間のデータを補完し高解像度を達成する方法について言及している。
Using ML and Optimization to Solve DoorDash’s Dispatch Problem
フードデリバリーサービスであるDoorDashにとって"dispatch problem"が課題。配達パートナーであるDasherを店への到着が早すぎず遅すぎないように手配する、Dasherが注文に対して少ない場合はどの注文からピックアップするかの判断をする、交通事情や天候の影響を織り込む、といった観点が必要。
ここで、機械学習と最適化を併用して対処している。初めの機械学習レイヤーでは、個別注文についてどのDasherにピックアップを依頼するとどのような結果になるか予測。次の最適化レイヤーは個別注文ではなく全体を見て、最適な判断を実行。
Technology
学習して進化するAIに“忘れさせる”ことは可能なのか? 研究者たちの取り組みと課題
AIの再学習のため、SISAと呼ばれる学習方法を開発。データセットを複数のサブデータセットに分けて別々に学習、予測の際には各モデルの予測値の多数決を採用。これにより、後々一部のサブデータセットの予測結果を削除したり、再学習したりできる。通常、再学習の際は一から学習し直す必要がある従来の手法に比べ、コストを抑えることもできる。
Editor Picks
自動運転車セキュリティ入門 第4回:意思決定モデルに対する敵対的攻撃 - 回避攻撃 -
自動運転車に対する攻撃手法と防御手法をまとめた記事。攻撃手法として、現実の道路標識にモデルの判断を誤らせるようなノイズを与える手法、防御手法として、攻撃で使われるサンプルのノイズを予め学習させる手法などが紹介されている。
従来のセキュリティの諸問題と同様、新たな防御手法に対して新たな攻撃手法が生み出されるイタチごっこの状況が続いており、「真に100%の防御は不可能、もし守りきれなかった場合にどうするか」という観点の実装やビジネス面の検討は必須と思われる。