Nishika AI News Letter - Issue #5
Summary
ESG×AIは、注目領域同士の掛け算ということで注目したいテーマです。ESG評価の目下の課題は客観性のある各企業一斉の評価ということで、まさにデータ活用が効果を発揮する領域です。ただし本当の意味で盛り上がるにはお金がつくようになってからという現実的な話はあり、ESGへの取り組みがさらに投資家の評価に影響したり、利益を生むといった構造になることが待たれます。
AIの説明性や公平性、プライバシー侵害とのバランスの問題は長く話題になっていますが、入居時審査やiPhoneを舞台に話題となっているのを見ると、とても身近な存在になってきたなという印象です。
AIの文脈では珍しく(?)最適化問題のニュースがありましたので取り上げました。最適化問題という言葉を初めて聞かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、非常に適用先も広く、機械学習と同等に注目すべき技術と私は考えています。こちらの資料など是非ご覧ください。(M)
Nishika AI News Letterへのご質問はこちら
※本Letterに関する質問、取り上げて欲しいトピック、自社のAI導入の相談、何でも結構です
Application
ESG評価は各評価機関がスコアを出しているが、各評価機関のスコアに相関がないことが指摘されているなど、客観的なデータに基づく評価が求められている状況です。
客観的評価に利用されるデータとしては、多くの企業が提出する決算書/有価証券報告書/統合報告書のテキスト情報が有力ですが、基本的には「各企業にとって良いこと」が書かれるため、十分に客観性があるかというと疑問もあります。代替データセットとして衛星画像やSNSへの書き込み、気候シミュレーションなどが注目されており、いくつかの事業者・リスク評価プレイヤーの動向が解説されています。
John Deere Acquires Bear Flag Robotics to Accelerate Autonomous Technology on the Farm
農機具メーカーであるJohn Deereが、スタートアップBear Flag Roboticsに2.5億ドルを支払い、自動運転トラクターの開発を進めています。農場での運転に最適化されており、例えば車で乗り越えられる落ちた枝と避けるべき木を判別することができるカメラを有していたり、土壌の質に関するデータを収集できるセンサを有していたりします。
自動運転車は、日本ではもちろん米国でも一般に公道で走行しているということはありませんが、農場のような特定の制約のある環境で使用する段階には既に到達していると言えます。
家賃滞納予測AIがプチ炎上、「公平性」巡る問題は技術で解決できるのか
入居希望者の情報を入力すると、その人の家賃滞納発生確率を予測するAIについて、ベータ版利用開始当初、説明性の欠如や公平性の疑問を指摘されたという話。これらはまさに今AI研究の中でホットなトピックです。
機械学習ではマイノリティはどうしても極端な判断がなされやすい中で、十分なデータを元に判断できているかの可視化、および十分なデータが集まっていない属性のデータ増強がこれから重要になってくるところです。
Expanded Protections for Children
Appleが、iCloudにuploadされた画像の中で、児童ポルノ・性的虐待にあたる画像を検知する仕組みを実装。
あくまで性的虐待の画像を検知する用途のみに使われること、政府の要求を受けた個人ユーザーの検索は拒否することなどがAppleのウェブサイト上では強調されていますが、裏を返せば、他の種類の画像を検閲する用途に使われ、プライバシーを侵害する危険性と隣り合わせの取り組みだと見ることもできます。
Technology
DeepMind & Google Use Neural Networks to Solve Mixed Integer Programs
囲碁AIのAlphaGoやタンパク質構造予測AIのAlphaFoldなどで知られるDeepMind社が、Graph Neural Networkを組み込んだ混合整数計画問題を解くソルバーを開発し、従来のソルバーよりも高い性能を示したというニュース。
というと難しいワードが並び何のことやらという印象だと思いますが、混合整数計画問題を含む数理最適化の技術は、実は身近なところで応用例がたくさんあり、生産計画の作成、コンテナへのパッキング、シフトスケジューリング、乗り換え案内などで使われています(詳細)。
本Letterで主に取り上げる「AI」は機械学習から成るものが多く、また機械学習と最適化は別物として捉えられることも多いです(実際には機械学習の手法の中で最適化が使われていたり、別物ということはないのですが)。そんな中で機械学習技術が最適化の中で価値を示したということで、実際には大きな性能の向上が認められたまでは言えないようですが、機械学習の適用先がこんなところにもやってきた、という意味で注目すべきニュースです。
Editor Picks
DABUS Gets Its First Patent in South Africa Under Formalities Examination
AIシステムを特許の発明者として認めた国が現れたというニュース。発明者はDABUSというシステムですが、これまでEUや英国、米国で特許が拒絶されてきた中、発明者が明確に定義されていない南アフリカで受理されたとのこと。
厳格でない基準の下で認められた特許にどの程度の価値があるかは疑問もありますが、アルゴリズムが新しい音楽や画像などの知的財産の発明者とみなされるか、またどの程度までなら発明者とみなされるかという議論が既にある中で、重要な先例となる可能性があります。
ちなみにこのDABUSというシステムは、「発明」の画像やテキストを既存の特許データベースと比較し、その新規性を評価するというもので、新規性が一定の閾値を超えた場合に人間に伝え、人間が特許申請書を作成する、という使われ方をします。ニュースのセンセーショナルさとは別に、純粋に有用なシステムには見えますね。